ある。
意外にもロダンの顔には満足の色が見えてゐる。健康で余り安逸を貪つたことの無い花子の、些の脂肪をも貯へてゐない、薄い皮膚の底に、適度の労動によつて好く発育した、緊張力のある筋肉が、額と腮の詰まつた短い顔、あらはに見えてゐる頸、手袋をしない手と腕に躍動してゐるのが、ロダンには気に入つたのである。
ロダンの差し伸べた手を、もう大分ヨオロツパ慣れてゐる花子は、愛相の好い微笑を顔に見せて握つた。
ロダンは二人に椅子を侑めた。そして興行師に、「少し応接所で待つてゐて下さい」と云つた。
興行師の出て行つた跡で、二人は腰を掛けた。
ロダンは久保田の前に烟草の箱を開けて出しながら、花子に、「マドモアセユの故郷には山がありますか、海がありますか」と云つた。
花子はこんな世渡をする女の常として、いつも人に問はれるときに話す、極まつた、〔ste're'otype〕 な身の上話がある。丁度あの Zola の Lourdes で、汽車の中に乗り込んでゐて、足の創の直つた霊験を話す小娘の話のやうなものである。度々同じ事を話すので、次第に修行が詰んで、routine のある小説家の書く文章のやうにな
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