ナある。声は無いが、強烈な、錬稠せられた、顫動してゐる、別様の生活である。
 幾つかの台の上に、幾つかの礬土の塊がある。又外の台の上にはごつ/\した大理石の塊もある。日光の下に種々の植物が華さくやうに、同時に幾つかの為事を始めて、かはる/″\気の向いたのに手を着ける習慣になつてゐるので、幾つかの作品が後れたり先だつたりして、此人の手の下に、自然のやうに生長して行くのである。此人は恐るべき形の記憶を有してゐる。その作品は手を動さない間にも生長してゐるのである。此人は恐るべき意志の集中力を有してゐる。為事に掛かつた刹那に、もう数時間前から為事をし続けてゐるやうな態度になることが出来るのである。
 ロダンは晴やかな顔附をして、この許多の半成の作品を見渡した。広々とした額。中程に節のあるやうな鼻。白いたつぷりある髯が腮の周囲に簇がつてゐる。
 戸をこつ/\と叩く音がする。
「Entrez !」
 底に力の籠つた、老人らしくない声が広間の空気を波立たせた。
 戸を開けて這入つて来たのは、猶太教徒かと思はれるやうな、褐色の髪の濃い、三十代の痩せた男である。
 お約束の Mademoiselle H
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