と云ふことがあるだらうと思ひます。西洋語の Orthographi eの orthos は正と云ふことであります。正しく書く法を Orthographie と云ふ。詞などと云ふやうなものも人の思想を表出するものであるから、正しいと云ふ詞を用ゐるのであります。正しいと云事《いふこと》は言へると思ふ。それから此の正と邪との關係と云ふことに連係しまして街道の譬と云ふものが頻《しき》りに本會に於て行はれて居る。昔の假名遣は舊街道である、其處《そこ》へ持つて行つて發音的の新しい假名遣が作られる、是れは便利なる横道である、何も舊い街道を正道として便利な新しい假名遣を邪道とすることはないと云ふのであります。此の話は少しく自分の見る所では事實に違つて居る樣であります。決してさう云ふ便利な新しい道が出來て居らないのであります。例之《たとへ》ば「つくゑ」と云ふ詞を見ましても、此wの子音に當る「う」と云ふ音、是が響かないのであります。其の響かないのを發音的に書くならば、誰が書いても「つくえ」と阿《あ》行の「え」を書いて居る筈《はず》であります。それならば新しい道が出來て居る譯で、それを認めてやつても宜しい譯
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