AFFENPSYCHE
ジユウル・クラルテエ Jules Clarete
森林太郎訳

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)生利《なまぎ》き

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「貝+藏」、126−上−13]品の

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ヒヨオ/\/\と
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 猿と云ふものは元から溜まらない程己に気に入つてゐる。第一人間に比べて見ると附合つて見て面白い処がある。それから顔の表情も人間よりははつきりしてゐて、手で優しく搦み付くところなぞは、人間が握手をするよりも正直に心持を見せてゐるのだ。それから猿の一番好い性質は、生利《なまぎ》きにも猿を滑稽なものに言ひ做《な》してゐる人間よりも、遙に残酷でないことである。猿は昔から人間の真似をしてゐるが、まだ人間の乱暴と不行跡とを真似たことはない。只一つ猿の人間に優つてゐないところは、たしかに人間と同じやうに焼餅を焼くことである。ビユツフオンの飼つてゐたシンパンジイ種の猿は、主人の好いた或る女が来る度に厭がつて、主人の杖を持ち出して威《おど》したさうだ。
 猩々やシンパンジイの猟をしたドユ・シヤイユウは人を避けて穴居してゐるこの猿共の性質の面白いことを報告してゐる。この男は平気で、なんの不思議な業《わざ》でもない積りで、一疋のシンパンジイが木の枝に隠れて寝てゐるのを殺したことを話した。猿は気の毒にも木の葉の蔭で隠れおほせた積りでゐたのだ。人間と云ふ永遠なる獄卒は眠らずに隙を覗つてゐるのである。ドユ・シヤイユウは寝た猿に狙ひ寄つたのだ。その時の事がこんな風に書いてある。「余は一疋の猿の巣に籠りて友を呼ぶを見たり。その傍《かたはら》には第二の巣を営みありき。呼ばれて答ふる第二の猿の声は直ちに聞えたり。余は同時に二疋の猿を殺すことを得べきを思ひて喜びゐたり。然るに同行者の身を動かしたるが為めに、用心深き猿は余等の潜伏しあるに気付きたり。巣に籠りたる猿は木より下《お》り来らんとす。余はこれを取り逃さんことを恐れて狙撃したり。その猿は即死して地に墜ちたり。これを見るに雄猿なりき。」かう書いてある。ドユ・シヤイユウは雄猿を獲たのに満足しないで、雌猿をも
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