さゐ)蘭草花開たり。細辛《さいしん》(加茂葵)杜衡《とかう》(ひきのひたひ草)多して上品なり。就中《なかんづく》夏枯草《かこさう》(うつぼ草、全く漢種のごとし)萱草《くわんざう》(わすれ草、深黄色甚多し)最多し。満山に紫黄相|雑《まじ》りて奇麗繁華限なし。喬木一株もなく亦鳥雀なし。(これよりまへ碓氷《うすひ》峠その外木曾路の山中鳥雀いたつてまれなり。王安石一鳥不鳴山更幽の句|覚妙《めうをおぼゆ》。)谷おほくありて山形甚円く仮山《かざん》のごとし。下諏訪|春宮《はるみや》に詣り、五里八丁下諏訪の駅に到る。温泉あり。綿の湯といふ。上中下《かみなかしも》を分《わかつ》ている。上の湯は清灑《せいしや》にして臭気なし。これを飲めば酸味あり。上の湯の流あまりを溜《たむ》るを中といひ、又それに次《つぐ》を下といふ。轎夫《けうふ》駄児《たじ》の類浴する故|穢濁《くわいだく》なり。此湯疝ある人浴してよく治すといへり。〔此辺温泉おほし。小湯《こゆ》といふあり。小瘡《せうさう》によし。たんぐわの湯といふあり。性熱なり。小瘡を患《うれ》ふるもの小湯に入まさに治んとするとき此湯にいる。又上諏訪山中に渋の湯といふ
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