玄俊は家に女子が無いので、赤子《せきし》を兄に託して祐けられ、兄瑞仙は男子が無いので、貞之介の祐二を獲て祐《たす》けられたと云ふ意であらう。瑞仙は後妻があり、先妻の生んだ長女千代も既に十四歳になつてゐたので、貞之介の世話をすることは容易であつただらう。

     その二百二十八

 京部東洞院姉小路に住んでゐる池田|玄俊《げんしゆん》の三男祐二は、母宇野氏|秀《ひで》が死んで、大坂平野町の伯父池田瑞仙に養はれた。時に天明六年で、玄俊は長男、次男が共に夭折して、祐二は其一人子であつたが、家に女の手がなかつたのである。これに反して瑞仙の家には後妻《こうさい》があり、又十四歳になる先妻の女《むすめ》千代がゐて、当歳の祐二の世話をする便《たつき》があつた。
 中一年置いて、天明八年に祐二は始て生父の許《もと》に来た。京水自筆の巻物に、「里帰の祝の為に入京」と書してある。是が正月二十九日であつたと推測せられる。何故と云ふに、其次に「大火に因て次の日再大坂に帰る」と書してあるからである。「大火」とは正月|晦日《つごもり》の団栗辻《どんぐりのつじ》の火事なることが明である。三歳の祐二の此往復は、定
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