妻を娶つた年は繰り上げられるかも知れない。
 上《かみ》に記した外、名録には尚庶出の女《ぢよ》二人がある。文政六年に歿した順、十一年に歿した万知《まち》である。然らば略伝は庶子中より独り順のみを挙げてゐるのであらう。
 蘭軒の娶つた妻は飯田休庵の二女である。初め蘭軒の父信階即井出門次郎の妹が休庵に嫁したが、此井出氏は早く歿して、水越氏民が継室となつた。休庵の二女は此水越氏の出《しゆつ》である。それゆゑ蘭軒の妻は小母婿《をばむこ》の子ではある。姑夫女《こふぢよ》ではある。しかし小母の女《むすめ》では無い。姑女では無い。
 蘭軒の妻は名を益と云つた。天明三年の生である。即ち明和七年に小母が死んでから、十三年目に纔《わづか》に生れたのである。蘭軒より少《わか》きこと六歳で、若し推定の如くに享和三年に婚嫁したとすると、夫蘭軒は二十七歳、妻益は二十一歳であつた。
 此年に蘭軒の友小島春庵|尚質《なほかた》の父春庵|根一《もとかず》が歿した。尚質は蘭軒と古書を愛する嗜好を同じうした小島宝素である。広島の頼山陽は此年十二月六日に囲から出されて、家にあつて謹慎することを命ぜられた。

     その二
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