椶軒《そうけん》阿部侯正精の此十六字を書した幅が分家伊沢に伝はつてゐる。
 憺甫の憺は心に従ふ。しかし又澹父にも作つたらしい。森田思軒の引いた菅茶山の柬牘《かんどく》には水《すゐ》に従ふ澹が書してあつたさうである。現にわたくしの饗庭篁村《あへばくわうそん》さんに借りてゐる茶山の柬牘にも、同じく澹に作つてある。啻《たゞ》に柬牘のみでは無い。わたくしの検した所を以てすれば、黄葉夕陽村舎詩に蘭軒に言及した処が凡そ十箇所あつて、其中澹父と書したものが四箇所、憺父と書したものが一箇所、蘭軒と書したものが二箇所、都梁と書したものが二箇所、辞安と書したものが一箇所ある。要するに澹父と書したものが最多い。坂本|箕山《きざん》さんが其藝備偉人伝の下巻《かくわん》に引いてゐる「尾道贈伊沢澹父」の詩題は其一である。此書の下巻は未刊行のものださうで、頃日《このごろ》箕山さんは蘭軒の伝を稿本中より抄出してわたくしに寄示《きし》してくれたのである。
 別号は蘭軒を除く外、※[#「くさかんむり/間」、7巻−42−上−11]斎《かんさい》と云ひ、都梁と云ひ、笑僊《せうせん》と云ひ、又|藐姑射《はこや》山人と云つた。※
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