天涯。別後心同未別時。漸近帰期才数日。杳然方覚思君滋。」
 わたくしは上《かみ》に西遊中の※[#「木+夜」、第3水準1−85−76]斎の最後の消息として、その七月に奈良にゐたことを挙げた。そして今此に蘭軒が其帰期の迫つたことを言ふ詩を見る。其詩は八月十二日の作の後にあつて、秋行の作の前にある。八月十二日に※[#「木+夜」、第3水準1−85−76]斎の未だ江戸に帰つてゐなかつたことは明で、其帰期は未だ冬に至らぬ前に既に迫つてゐたのである。想ふに※[#「木+夜」、第3水準1−85−76]斎は春の末に江戸を去つて、秋の末には帰り来つたのであらう。「故人半歳在天涯。」留守は丁度半年の間であつた。
 序《ついで》にわたくしは此「秋行」の絶句の本草家蘭軒の詩たるに負《そむ》かぬことを附記して置く。それは石蒜《せきさん》が珍らしく詩に入つてゐることである。「荒径雨過滑緑苔。花紅石蒜幾茎開。」詩歌の石蒜を詠ずるものはわたくしの記憶に殆無い。桑名の儒官某の集に七絶一首があり、又昔年池辺|義象《よしかた》さんの紀行に歌一首があつたかとおもふが、今は忘れた。わたくしは大正五年の文部省展覧会の洋画を監査して家
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