人語囂。何知貧富似風潮。近来一事尤堪怪。斗米三銭歎歳饒。」蘭軒の詩に曰く。「四十余年戯楽中。老来猶喜迎春風。請看恵政方優渥。一邸不知歳歉豊。」前詩は年《とし》豊《ゆたか》にして米《こめ》賤《いやし》きを歎じ、後詩は年の豊凶と米価の昂低とに無頓着であるものと聞える。
 頼氏では此年山陽の次男辰蔵が生れた。一に辰之助とも云つてある。聿庵《いつあん》の弟、支峰の兄で、里恵の始て生んだ男児である。山陽は喜んで母に報じた。「家書新有承歓処。報向天涯獲一孫。」しかし辰蔵は後僅に六歳にして夭扎《えうさつ》した。宗家を嗣いだ聿庵は此年戸田氏を娶つた。

     その百十一

 菅茶山は此年文政三年に書を某に与へて、蘭軒に言伝《ことつて》をしたが、某の名も知れず、書を作つた月日も知れない。饗庭篁村《あへばくわうそん》さんの所蔵の此書牘の断片は下《しも》の如きものである。「歳旦の詩二首、去年の作一首、辞安へ必ず御見せ可被下候。これもよほど快く候よし、病はすこしいゆるに加はると申こと、かの性悪先生之語也。きつと御慎被成よと、御申可被下候。これは書状に申遣候筈なれども、人を媒《なかだち》にして申が却而《かへ
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