ものも併せ載せてあつたなら、それは予期せざる幸であらう。若し富士川氏の手抄に偶《たま/\》一節を保存せられた文の全篇が載せてあつたなら、それは予期せざる幸であらう。
わたくしは蔵書の乏しい癖に、図書館には疎遠である。吉永氏の書を得た後、未だ一訪するに及ばない。識る所の書估の云ふを聞くに、江戸黄蘗禅刹記は所謂《いはゆる》珍本ださうである。買ひ求むることはむづかしさうである。或はわたくしも早晩遂に図書館に趨らざることを得ぬかも知れない。
その九十一
小島春庵|尚質《なほかた》が初て妻を娶つたのも、此年文化十三年十一月二十九日である。春庵尚質は春庵|根一《もとかず》の子で、所謂《いはゆる》宝素である。長井金風さんの言《こと》に拠れば、曾て揚上善《やうじやうぜん》の大素経《たいそけい》を獲て、自ら宝素と号したのださうである。尚質の母は蘭学者前野|良沢憙《りやうたくよみす》の女《むすめ》である。憙は老後根岸の隠宅から小島の家に引き取られて終つた。尚質の初の妻は山本|宗英《そうえい》の女である。春沂《しゆんき》を生んだのは此女ではない。此女の歿した後に来た後妻である。
此年蘭軒
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