ざれば出来不申候もの也。」
「一、前年|蠣崎将監《かきざきしやうげん》殿へ遣候書状御頼申候。其後は便所《びんしよ》も出来候事に御座候哉。又々書状遣度候へ共、よき便所を得不申候。犬塚翁などへ、通路も御座候や御聞合可被下候。是亦奉願上候。」
「得意ざきへ物買に行ごとく、用事|計《ばかり》申上候事、思召も恥入候。然ども外にはいたしかた無之、無拠《よんどころなく》御頼申上候。これまた前世より之|業《ごふ》などと思召、御|辨《わきまへ》被下度奉願上候。」
「御内上様へ次《ついで》に宜奉願上候。敬白。七月廿二日。菅太中晋帥《くわんたいちゆうしんすゐ》。伊沢辞安様侍史。猶々妻も自私《わたくしより》宜申上候へと申托《まをしたくし》候。」
 茶山は蘭軒の返信を促すに、一たび間接の手段を取つて、書を今川槐庵に与へたが、又|故《もと》の直接の手段に立ち戻つて此書を蘭軒に寄せた。神辺にあつて江戸の消息を知るには、蘭軒に頼《よ》る外に途が無かつたのである。
 茶山は頼|杏坪《きやうへい》が江戸に往来しなくなつたり、倉成|竜渚《りゆうしよ》が死んだり、尾藤二洲が引退したりしたと云ふやうな江戸の時事が知れぬのに困る
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