を遷しし時の遺風なりといへり。此近村大手村、桂尾《けいび》山勝福寺といふ寺に文翰詞林三巻零本ありと鷦鷯春行《さゝきしゆんかう》かたりたり。此日尋ることを不得遺憾といふべし。須磨寺にいたる。上野山《しやうやさん》福祥寺といふ。此亦下馬碑あり。蔵物を観る。辨慶の書は、双鉤填墨《さうこうてんぼく》のものゝごとし。源空の書は東都屋代輪池蔵する選択集《せんぢやくしふ》の筆跡に似《にた》るがごとし。敦盛の像及甲冑古色可掬。大小二笛高麗笛古色なり。寺の後山一二三|谷《のたに》をすぎ海浜に出て敦盛塔を看。(一説平軍戦死合墓なりといふ。)五輪石塔|半《なかば》埋《うづもれ》たるなり。此海浜山上|蔓荊子《まんけいし》多し。花盛にひらく。界川に到る。是摂播二国の界なり。垂水《たるみ》の神祠を拝し遊女冢をすぎ千壺岡《ちつぼのをか》に上つて看る。烏崎舞子浜山田をすぎ五里大蔵谷駅。樽屋四郎兵衛の家に宿す。此日暑尤も甚し。此夜月明にして一点の雲なし。兼松弥次と荒木一次とを拉して人麿祠の岡に上る。路に忠度墓《たゞのりのはか》あり。上《かみ》に一大松あり。田間の小路より上るときは大海千里如銀岡上の松間清月光を砕く。石階
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