苗木城西二里|許《きよ》水晶が根といふ山よりとり来るといふ。二里半大井駅。十三峠をのぼる。此|嶺《れい》はなはだ険ならず、渓《けい》なく谷《こく》あり。石も少して赤埴土《あかきはにつち》なり。木曾路のごとく山腹の崖路にあらず、山頭の道なり。松至て多く幽鬱の山なり。三里半|大湫《おほくて》駅。小松屋善七の家に宿す。午後風あり涼し。雷《かみ》なる。雨ふらず。行程八里半余。」
詩。「巻金村。離信已来濃。行行少峻峰。望原莎径坦。臨谷稲田重。五瀬雲辺嶺。七株山畔松。炊烟人語近。半睡聴村舂。」五|瀬《らい》はいせである。「此地遠望勢州之諸山、翠黛於雲辺」と註してある。
第十二日。「六月|朔日《ついたち》卯発。琵琶嶺をすぎ山を下れば松林あり。右方に入海のさまにて水滔々たり。諸山の影うつる。海の名を轎夫《けうふ》に問へば谷間の朝霧なりと答ふ。はじめて此時仙台政宗の歌を解得《ときえ》たり。(仙台政宗の歌に、山あひの霧はさながら海に似て波かときけば松風の声。)一里三十丁|細久手《ほそくて》駅。此近村に一|呑《のみ》の清水といふあり。由縁《いうえん》詳《つまびらか》ならず。然ども鬼の窟《いはや》、鬼の首
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