日箱館残り御人数帰著。岡田、斎藤、青木在其内。有祝行。家作料三貫目被成下、会計局より受取。」北征の時の総督岡田創以下が前日福山に還つたのである。吉津村構築の費用は阿部家より給せられて、棠軒は債を償ふことを得た。
「廿九日。晴。殿様於東京天杯御頂戴|被為蒙仰候《おほせをかうむらせられそろ》御祝儀五時より四時迄之内出仕御帳有之。」阿部|正桓《まさたけ》の朝恩を蒙つたのを賀するのである。
「九日。(八月。)晴。吉辰に付普請場へ引移。引越|御達《おんとゞけ》月番へ差出す。」吉津村の新居に移つたのである。手伝人中に飯田安石夫妻、森養真、岡待蔵等の名がある。公私略の文は日録と同じである。
「十四日。雨。殿様御帰藩被遊候に付、朝五半時揃総出仕、午刻御著。馬屋原、内野御供。」阿部正桓が福山に還つたのである。馬屋原の事は上《かみ》に註した。内田亦医官である。席順に「八人扶持、補、内田養三、三十六」と云つてある。
「十九日。晴。当直。当春より殿直《でんちよく》に不及、宅心得に相成。尤他出無用。当朝拝診可罷出之事。」棠軒勤仕の状況を見るべきである。
「廿一日。晴。石川大夫へ行。過日帰著に付。」藤陰成章《とういんせいしやう》であらう。己巳席順に「二百石、御足百石、上議員、関藤文兵衛、六十三」と云つてある。藤陰舎遺稿に拠るに、藤陰は此年正月東京に往つた。又東京を発する前|不争斎正寧《ふさうさいまさやす》が宴を本所石原邸に賜うた。家乗には「七月廿一日東京発、八月十八日福山著、廿四日執政を罷め、波平行安作刀一振を賜ふ」と云つてある。
「三日。(九月。)晴。渡辺省診。文兵衛殿へ寄一診。」棠軒は渡辺氏を往診する次《ついで》に、藤陰の病を診した。渡辺氏の事は是より先八月十日の条に、「渡辺母公不快之由申来、午後見舞行」と云つてある。その「母公」と云ふより見れば、病者は席順の「大監察、渡辺造酒丞、五十七」の母であらう。藤陰は東京より帰つた直後に病んだと見える。

     その三百四十七

 わたくしは棠軒日録己巳九月の条を続抄する。
「廿二日。(九月。)晴。三沢順民《みさはじゆんみん》病死之由申来。養玄同道|悔行《くやみにゆく》。」三沢は己巳席順に「十人扶持、准、三沢順民、廿九」と云つてある。その壮年にして歿したことを知るべきである。蘭軒と菅茶山との往復に見えた玄閑の後で、蘭医方に転じたと云ふは此人か。棠軒は寛斎と共に往いて弔した。
「廿五日。晴。去冬箱館戦争為御褒美、今般知事様へ永世六千石下賜趣、右為御祝儀御帳罷出候。」禄を阿部正桓に賜はつたのである。
「二日。(十月。)晴。文兵衛殿省診。」二たび関藤藤陰を往診したのである。
「十九日。徳児携手《とくじをたづさへて》城浦《しろうら》より釣舟遊行。」冢子《ちようし》平安の徳《めぐむ》と改称したことが始て此に見えてゐる。
「廿日。晴。関藤へ行。」此訪問は病を診せむがためなりや否やを知らない。関藤氏の家乗に拠れば、藤陰は戊辰十二月三日に本姓に復し、中岡才助に石川氏を譲つたのだと云ふ。才助は後の陸軍歩兵大尉石塚|敬儀《よしのり》である。原来棠軒日録には殆日ごとに「石川へ行」、「石川へ寄」等の文がある。是は石川貞白である。そして事の藤陰に係るものは、初より必ず石川大夫若くは文兵衛殿と書してあつた。わたくしは読んで此に至つて始て関藤の文字に逢著したのである。
「廿一日。晴。徳児携へ角力見物。陣幕土俵入並五人掛り有之。」陣幕久五郎が技を福山に演じたのである。
「廿二日。晴。」是日棠軒の訪問した六家の中に、又関藤がある。第四次の往診である。
「廿七日。晴。御隠居様|御不快被為入《ごふくわいにいらせられ》御容体書於御家従詰所拝見。養竹|為御見舞《おんみまひとして》東京へ早打に而被遣候旨。右に付同家へ行。」阿部|正寧《まさやす》が東京石原邸に於て病んだ。森枳園が問候のために東京へ急行した。棠軒はこれを聞いて家従詰所に往き、老侯の病況書を閲《けみ》し、後森氏を訪うたのである。下《しも》に枳園発程の記事のないのを見れば、枳園は此日に福山を発したものと見える。枳園は時に年六十四であつた。
「十三日。(十一月。)夜来雨。」棠軒の此日に訪うた三家の中に「真野」がある。己巳席順に「八十俵、真野兵助、五十」と云つてある。蘭軒に交つた竹亭頼恭《ちくていよりゆき》には孫、陶後頼寛《たうごよりひろ》には子で、名は頼直《よりなほ》、小字《をさなな》松三郎、竹陶と号した。今の幸作さんの父である。
「十八日。晴。三沢礼介家督被仰付。右|祝行飲《いはひにゆきのむ》。」礼介は順民《じゆんみん》の後を襲《つ》いだのであらう。
「廿三日。晴。大殿様為御看病東京へ御発駕被遊候に付、為御機嫌伺朝六時出勤。五半時過早打に而御出被遊候。立造《りふざう》御供。」正寧の病を瞻《
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