水準1−85−84]欲去引剛風。茫茫千古誰成匹。源九郎逃入海夷。」
「十八日。晴。はた/\魚《うを》漁猟甚盛。」
「十九日。晴。午後|陰《くもる》。暮雨。昼九時より乗船。夕七半時出帆。」
「二十日。晴雪相半《せいせつあひなかばす》。午時《ひるどき》箱館府へ着船。暮時上陸。町宿銭屋与兵衛宅へ落著。」
「廿一日。雪。又晴。脱走船南部沖へ七艘相見候に付、斥候一小隊尻沢村(半里)へ御差出相成。御医師一人二日おき交代。斎木出張。伊藤屋佐治兵衛へ宿替。メリヤス繻絆股引金二両二朱。」箱館戦史及榎本武揚伝の詳細なるものはわたくしの手許にない。文淵堂所蔵の一|戸《のへ》隆次郎著「榎本武揚子」に拠れば、武揚等の諸艦は「十一月二十日夜に乗じて函館を距る十里なる鷲木港に入る」と云つてある。「十一月」は「十月」の誤なること明である。
「廿二日。半陰。尻沢村出張之御人数大野村(五里)迄進発。」一戸の記に拠れば、武揚は「人見勝太郎、本多幸七郎の両人に命じ、(中略)五稜廓に」向はしめた。「二人命を聞いて茅部嶺を越え、大野まで至」ると、「津軽の兵二百人人見勝太郎等の大野村に在るを聞いて夜襲」した。福山藩兵の進発は此時の事か。
「廿三日。雨。賊徒上陸之由に付、二小隊|七重《なゝへ》村(二里)迄御差出相成。石川厚安右へ出張。亀屋武兵衛(山市)宅へ病院移転。夜五時過大御目付山岡氏より、春安亮碩松軒亀田表御本営へ明日繰込相成候旨申来。」病院は初伊藤屋に置かれたものか。山岡、名は源左衛門、二十七歳。後運八と称す。亀田表は亀田村五稜廓である。一戸の記に、「土方歳三は一軍に将として、星恂太郎、春日左衛門等と(中略)川吸峠を踰えて函館に入り、大野に陣取りける時、彰義隊の残党等も来つて土方が隊に合し、七重村の官兵を襲」ふと云つてある。福山藩兵の七重村に入つたのは此時か。
「廿四日。晴雪相半。午後亀田へ出張之処。途中津軽迄|引退之《ひきしりぞきの》事に相成。今朝より大野村及大川村戦争有之、兵隊十人許り即死、怪我人数人有之、官軍|不利《りあらず》。」一戸の記に、「土方等直ちに七重村を占領しぬ、清水谷府知事は官軍の利あらざるを見て、五稜廓を逃れ出で、函館に赴き、普魯西の蒸汽船に乗つて津軽に赴」くと云つてある。箱館府知事|清水谷公考《しみづだにきんなる》は武揚等の上陸に先だつて五稜廓に入つてゐた。当時公考二十四歳。
「廿五日。晴。暁七時頃土州軍艦へ乗込之処、行違ひにて又々異船へ乗替、暮時箱館湊より出帆。」
「廿六日。晴。昼八時津軽領青森湊着船。総御人数上陸。中村屋三郎宅へ宿《やどる》。」
「廿七日。半晴。夕微雨。」
「廿八日。雨。」一戸の記に拠れば、武揚等の五稜廓より松前に向つた日である。
「廿九日。陰《くもる》。」
「晦日《つごもり》。晴。」
「十一月|朔日《ついたち》。晴。月賜金二両、外一両。天朝より御酒代恩賜配分金二分と銭百六十文。」当時の戦時給養である。一戸の記に拠れば、是日武揚等は松前藩兵を尻内《しりない》に破つた。
「二日。晴。午前より陰。油川村(相距る一里)へ五小隊御差出相成。自分並藤田子同所へ出張被仰付、午刻青森出立、夕七時油川村著、菊屋重助宅へ落著。」油川村、一名大浜、青森に次ぐ埠頭であつた。一戸の記に拠れば、武揚等の福島湾に迫つた日である。
「三日。半晴。夜雪。当所住居抽斎門人成田祥民面会。」
「四日。半晴。」
「五日。陰。」一戸の記に拠れば、武揚と事を倶にする大鳥圭介等が松前の城を陥れ、城将田村量吉の自殺した日である。城は嘉永二年徳川|家慶《いへよし》の築かしめた所謂福山城である。
「六日。晴。」

     その三百三十九

 棠軒が戊辰従軍の日記は既に十一月六日に至つてゐた。福山の兵は箱館より退いて青森に至り、棠軒が属する所の一部隊は油川村に次《じ》してゐるのである。
「七日。陰。朝青森湊へ賊艦二艘来著、無程《ほどなく》退帆、夜六時頃津軽領平館(八里)へ右賊艦相廻、十四五人上陸いたし候由風聞有之。」
「八日。陰。冬至。」
「九日。晴。夜雨。」
「十日。雨。」
「十一日。陰。」
「十二日。晴。」一戸の記に拠れば、武揚等の雪中《せつちゆう》江刺《えざし》に入つた日である。松前の陥いつた時、藩主松前|徳広《のりひろ》は江刺にゐて、敵兵の至る前に熊石に逃れた。
「十三日。陰。」
「十四日。半晴。夜雪。」
「十五日。雪。文礼子《ぶんれいし》御用にて新城宿より爰元《こゝもと》通行。」一戸の記に拠れば、武揚等の兵が館《たて》の寨《さい》を陥れた日である。
「十六日。雪。」
「十七日。雪。榛軒先生十七回忌に付、雑煮餅一統へ振舞。文礼子青森より帰途立寄一泊。」
「十八日。半晴。夕雪。」
「十九日。雪。」
「廿日。晴雪相半《せいせつあひなかばす》。弘前侯より岡田総督始、人夫迄之御
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