家であらうか。因に云ふ。福山の伊藤氏には別に仁斎の末裔がある。仁斎|維※[#「木+貞」、第3水準1−85−88]《ゐてい》の子が東涯長胤《とうがいちやういん》、梅宇長英《ばいうちやうえい》、梅宇の子が蘭※[#「田+宛」、第3水準1−88−43]懐祖《らんゑんくわいそ》、蘭※[#「田+宛」、第3水準1−88−43]の子が竹坡弘亨《ちくはこうかう》、竹坡の子が蘆汀良炳《ろていりやうへい》、蘆岸良有《ろがんりやういう》、蘆岸の子が竹塘良之《ちくたうりやうし》である。同じ席順に「第六等席、十五人扶持、伊藤揚蔵、三十四」と云ふのが此竹塘で、其子|琢弥《たくや》は京都の宗家を継いで歿し、琢弥の兄|顧也《こなり》さんは現に幼姪《えうてつ》の後見《うしろみ》をしてゐる。安石は飯田安石である。玄高は公私略癸亥十一月七日の条に「成田竜玄次男玄高入門」と云つてある。全八郎は料理人上原全八郎である。洞谷《どうこく》は上《かみ》の席順に「第六等席、十三人扶持、吉田洞谷、四十二」と云つてある。画師である。乙平《おとへい》、省吾《せいご》は席順に、「第八等格、廿俵二人扶持、渡会乙平、廿六」、「第七等席、三両三人扶持、島省吾、廿五」があるが、果して其人なりや否を知らない。金八郎、柏原忠蔵は未だ考へない。拡の事は下《しも》に出す。
 棠軒と同行した医師は五人であつた。「御医師小子及天富良碩、斎木文礼、石川厚安、藤田松軒(同人一昨日三口表御医師見習)、其外鞆医師生口拡、合六人」と云つてある。上の席順に「第六等席、天富良碩、廿六」「第六等席、八人扶持、斎木文礼、廿七」「第七等席、十二石、石川厚安、廿六」「第七等格、准医補、藤田松軒」「第七等格、准医補、生口拡」と云つてある。此中|生口拡《いくちひろめ》は文事を以て世に知られてゐる。拡、字《あざな》は充夫《じうふ》、酔仙と号した。文久元年に近世詩林一巻を刻し、末に七律一篇を載せてゐる。「抄近時諸家詩畢有作。選楼弄筆寄幽娯。一巻新詩収美腴。縦有蟹螯兼蛤柱。何曾燕石混※[#「虫+賓」、8巻−263−下−6]珠。雄篇河嶽英霊集。名句張為賓主図。多少世間同好士。為吾能諒苦心無。」第六の張為《ちやうゐ》が主客図の典故は唐詩紀事に見えてゐる。棠軒が同行の医師は皆鞆の善行寺に舎《やど》つた。
 二十二日に福山より来て、棠軒を善行寺に訪うたものは「貞白、養玄、安石、元民、全八郎、洞谷、雄蔵等」である。貞白は石川、養玄は岡西である。元民は席順に「第六等席、九人扶持、准、皆川元民、三十七」と云つてある。雄蔵は席順の「第七等席、十二石二人扶持、鵜川雄蔵、廿六」か。其他は前に註してある。
 十月二日に棠軒は英船モナ号に搭して鞆を発した。「廿九日(九月)晴、御軍艦著津、英船モナ。(中略。)二日(十月)晴。午後乗艦、同八半時出帆。」

     その三百三十八

 わたくしは棠軒が戊辰の年に従軍して、十月二日に備後国|鞆《とも》を発したことを記した。日録には歴史上多少の興味がある故、稍詳に此に写し出さうとおもふ。しかし原文の瑣事を叙することの繁密なるに比すれば、僅に十の一を存するに過ぎない。
「三日。朝四時長州馬関へ下碇《かてい》。不上陸。八半時同所出帆。」
「四日。雨。風|勁《つよく》、浪又高。」
「五日。漸晴。午時越前敦賀湊へ著船。夕上陸御免。買物ちよき金二分二朱、金巾《かなきん》筒じゆばん同一分、陣中胴乱同二分一朱、戎頭巾《えびすづきん》同一分、つり百文。」当時の軍需品の市価を知るべきを以て、特に数句を存録する。
「六日。晴。於同所大野侯御人数乗組。」越前国大野郡大野の城主土井利恒の兵が上船したのである。
「七日。晴。総隊上陸。船御普請相成。御医師円教寺へ一泊。」船に損所あるを発見して、修繕したのである。
「八日。晴。艦《ふね》造作御出来に付、朝四時乗船。八半時出帆。」
「九日。半晴。午後雨。」
「十日。風雨。夕初雪。村上領夏島沖へ碇泊。」
「十一日。晴。乍《たちまち》霰《あられ》。朝四時夏島出帆。夜九時頃羽州秋田近海へ碇泊。」
「十二日。晴。朝土崎湊へ著。秋田へ一里半。」
「十三日。晴。又雪。風頗急、浪尤高。舟川湊(相|距《さ》る九里)へ退帆。総御人数上陸、漁家へ止宿。」車駕入京の日である。
「十四日。雪。逗留。」
「十五日。晴。夕雨。同断。」
「十六日。晴。後雨。船|直《なほし》。」
「十七日。雨巳刻より止。陰《くもる》。逗留。箱館表出兵|被為蒙仰《おほせをかうむらせらる》。」是は榎本武揚等が北海道に向つた故である。武揚は是より先幕府の軍艦奉行であつたので、八月十九日軍艦数隻を率《ひきゐ》て品川湾を脱出し、途次館山、寒沢《さむさは》に泊し、北海道を占領せむと欲して先づ室蘭附近に向つたのである。「世上誰知鉄石衷。乗※[#「木+査」、第3
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