わたした。
 お豊さんはそれを受け取って、妹に「ここはこのままそっくりしておくのだよ」と言っておいて、桃の枝を持って勝手へ立った。
 ご新造はあとからついて来た。
 お豊さんは台所の棚《たな》から手桶《ておけ》をおろして、それを持ってそばの井戸端に出て、水を一釣瓶汲《ひとつるべく》み込んで、それに桃の枝を投げ入れた。すべての動作がいかにもかいがいしい。使命を含んで来たご新造は、これならば弟のよめにしても早速役に立つだろうと思って、微笑を禁じ得なかった。下駄を脱ぎすてて台所にあがったお豊さんは、壁に吊ってある竿の手拭いで手をふいている。そのそばへご新造が摩《す》り寄った。
「安井では仲平におよめを取ることになりました」劈頭《へきとう》に御新造は主題を道破《どうは》した。
「まあ、どこから」
「およめさんですか」
「ええ」
「そのおよめさんは」と言いさして、じっとお豊さんの顔を見つつ、「あなた」
 お豊さんは驚きあきれた顔をして黙っていたが、しばらくすると、その顔に笑《え》みがたたえられた。「※[#「言+墟のつくり」、第4水準2−88−74]《うそ》でしょう」
「本当です。わたしそのお話を
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