女と見合いをして縁談を取りきめようなどということは自分にも不可能であったから、自分と同じ欠陥があって、しかも背の低い仲平がために、それが不可能であることは知れている。仲平のよめは早くから気心を識り合った娘の中から選び出すほかない。翁は自分の経験からこんなことをも考えている。それは若くて美しいと思われた人も、しばらく交際していて、智慧《ちえ》の足らぬのが暴露してみると、その美貌《びぼう》はいつか忘れられてしまう。また三十になり、四十になると、智慧の不足が顔にあらわれて、昔美しかった人とは思われぬようになる。これとは反対に、顔貌《かおかたち》には疵《きず》があっても、才人だと、交際しているうちに、その醜さが忘れられる。また年を取るにしたがって、才気が眉目をさえ美しくする。仲平なぞもただ一つの黒い瞳をきらつかせて物を言う顔を見れば、立派な男に見える。これは親の贔屓目《ひいきめ》ばかりではあるまい。どうぞあれが人物を識った女をよめにもらってやりたい。翁はざっとこう考えた。
翁は五節句や年忌に、互いに顔を見合う親戚の中で、未婚の娘をあれかこれかと思い浮べてみた。一番|華《はな》やかで人の目につくのは、十九になる八重という娘で、これは父が定府《じょうふ》を勤めていて、江戸の女を妻に持って生ませたのである。江戸風の化粧をして、江戸|詞《ことば》をつかって、母に踊りをしこまれている。これはもらおうとしたところで来そうにもなく、また好ましくもない。形が地味《じみ》で、心の気高い、本も少しは読むという娘はないかと思ってみても、あいにくそういう向きの女子は一人もない。どれもどれも平凡きわまった女子ばかりである。
あちこち迷った末に、翁の選択はとうとう手近い川添《かわぞえ》の娘に落ちた。川添家は同じ清武村の大字《おおあざ》今泉、小字《こあざ》岡にある翁の夫人の里方で、そこに仲平の従妹《いとこ》が二人ある。妹娘の佐代《さよ》は十六で、三十男の仲平がよめとしては若過ぎる。それに器量《きりょう》よしという評判の子で、若者どもの間では「岡の小町」と呼んでいるそうである。どうも仲平とは不吊合いなように思われる。姉娘の豊《とよ》なら、もう二十《はたち》で、遅く取るよめとしては、年齢の懸隔もはなはだしいというほどではない。豊の器量は十人並みである。性質にはこれといって立ち優《まさ》ったところはないが
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