屋に、よめはよめの部屋に、弟は弟の部屋に、じっと物を思っている。主人は居間で鼾をかいて寝ている。あけ放ってある居間の窓には、下に風鈴をつけた吊荵《つりしのぶ》が吊ってある。その風鈴が折り折り思い出したようにかすかに鳴る。その下には丈《たけ》の高い石の頂《いただき》を掘りくぼめた手水鉢《ちょうずばち》がある。その上に伏せてある捲物《まきもの》の柄杓《ひしゃく》に、やんまが一|疋《ぴき》止まって、羽を山形に垂れて動かずにいる。
 一時《ひととき》立つ。二時《ふたとき》立つ。もう午《ひる》を過ぎた。食事の支度は女中に言いつけてあるが、姑《しゅうとめ》が食べると言われるか、どうだかわからぬと思って、よめは聞きに行こうと思いながらためらっていた。もし自分だけが食事のことなぞを思うように取られはすまいかとためらっていたのである。
 そのときかねて介錯《かいしゃく》を頼まれていた関小平次が来た。姑はよめを呼んだ。よめが黙って手をついて機嫌を伺っていると、姑が言った。
「長十郎はちょっと一休みすると言うたが、いかい時が立つような。ちょうど関殿も来られた。もう起こしてやってはどうじゃろうの」
「ほんにそうでござります。あまり遅くなりません方が」よめはこう言って、すぐに起《た》って夫を起しに往った。
 夫の居間に来た女房は、さきに枕をさせたときと同じように、またじっと夫の顔を見ていた。死なせに起すのだと思うので、しばらくは詞《ことば》をかけかねていたのである。
 熟睡していても、庭からさす昼の明りがまばゆかったと見えて、夫は窓の方を背にして、顔をこっちへ向けている。
「もし、あなた」と女房は呼んだ。
 長十郎は目をさまさない。
 女房がすり寄って、そびえている肩に手をかけると、長十郎は「あ、ああ」と言って臂《ひじ》を伸ばして、両眼を開いて、むっくり起きた。
「たいそうよくお休みになりました。お袋さまがあまり遅くなりはせぬかとおっしゃりますから、お起し申しました。それに関様がおいでになりました」
「そうか。それでは午《ひる》になったと見える。少しの間だと思ったが、酔ったのと疲れがあったのとで、時の立つのを知らずにいた。その代りひどく気分がようなった。茶漬《ちゃづけ》でも食べて、そろそろ東光院へ往かずばなるまい。お母《か》あさまにも申し上げてくれ」
 武士はいざというときには飽食《ほうしょ
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