した。此連中が食後に橇に乗つて近郊へ遊びに行かうと云ふことになつた。その人々は辯護士が二人、富有な地主が一人、士官が一人、それに貴夫人が四人であつた。夫人の一人は士官の妻《さい》で、今一人は地主の妻である。三人目の女は地主の同胞《どうはう》で未婚の娘である。さて四人目の女が一度離婚したことのある人で、器量が好くて財産がある。そしていつも常軌を逸した事をして市中の人を驚かしてゐるのである。
その日は上天気で、橇に乗つて往く道は好い。市中を離れて十ヱルストばかりの所に来て、一同休んだ。その時こゝから引き返さうか、もつと先まで往かうかと云ふ評議があつた。
「一体此道はどこまで行かれる道ですか」とマスコフキナが問うた。例の離婚した事のある美人である。
「これからもう十二ヱルスト行けばタムビノです」と辯護士の一人が答へた。これは平生マスコフキナの機嫌を取つてゐる男である。
「さう。それから先は。」
「それから先はL市に往くのです。タムビノの僧院の側を通つて往くのです。」
「そんならその僧院はあのセルギウスと云ふ坊さんのゐる所ですね。」
「さうです。」
「あれはステパン・カツサツキイと云つた士
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