優しく抱き寄せて、額に手を掛けて仰向かせて、目と目をぢつと見合せる。それから黙つて長い接吻をする。その接吻を受ける時、女は日によつて自分の霊が火のやうに燃え立つと思つたり、又雪のやうに解けると思つたりする。
或る時はクサンチスがこんな事を言ふ。「なんだかかうしてお前さんのお言ひの事を聴いてゐると、わたしは昔から、お前さんとばかり暮してゐたやうな心持がしますわ。どうもこの生活と違つた、別な生活はわたしに想像が出来なくなつてしまひましたの。」二人は二度目に逢つてからは、お前さんだのお前だのと言ひ合つてゐるのである。
「お前は永遠なるもの、完全なるものの閾《しきゐ》を跨いでゐるのだよ。」
「えゝ。全くさうなの。」こんな問答をする。
実は女はさういふ詞《ことば》が分かるのではない。併し「完全なるもの」なんといふ事は深秘であるから、青年に分かつてゐるだけは、女にも分かつてゐると云つても好からう。女は折々「永遠なるもの」「完全なるもの」といふやうな事を繰返す。そして其詞を声に出して言ふと同時に、曾てそれを聴いた時に感じた不思議な感じ、今言ひあらはさうとする不思議な感じが胸に満ちるのである。どう
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