を受けたのは余計であろう。しかし自分の悟性が情熱を枯らしたようなのは、表面だけの事である。永遠の氷に掩《おお》われている地極の底にも、火山を突き上げる猛火は燃えている。Michelangelo は青年の時友達と喧嘩をして、拳骨で鼻を叩き潰《つぶ》されて、望を恋愛に絶ったが、却《かえっ》て六十になってから Vittoria Colonna に逢って、珍らしい恋愛をし遂げた。自分は無能力では無い。Impotent では無い。世間の人は性欲の虎を放し飼にして、どうかすると、その背に騎《の》って、滅亡の谷に墜ちる。自分は性欲の虎を馴らして抑えている。羅漢《らかん》に跋陀羅《ばつだら》というのがある。馴れた虎を傍《そば》に寝かして置いている。童子がその虎を怖れている。Bhadra とは賢者の義である。あの虎は性欲の象徴かも知れない。只馴らしてあるだけで、虎の怖るべき威は衰えてはいないのである。
 金井君はこう思い直して、静に巻《まき》の首《はじめ》から読み返して見た。そして結末まで読んだときには、夜はいよいよ更《ふ》けて、雨はいつの間にか止んでいた。樋の口から石に落ちる点滴が、長い間《ま》を置い
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