夜行くぞ」と云った。「あの右の廊下の突き当りですよ。沓《くつ》を穿《は》いていらっしっては嫌」響の物に応ずる如しである。咽《む》せる様に香水を部屋に蒔《ま》いて、金井君が廊下をつたって行く沓足袋《くつたび》の音を待っていた。Munchen[#「u」にはウムラウトが付く] の珈琲店を思い出す。日本人の群がいつも行っている処である。そこの常客に、稍《や》や無頼漢肌の土地の好男子の連れて来る、凄味《すごみ》掛かった別品がいる。日本人が皆その女を褒《ほ》めちぎる。或晩その二人連がいるとき、金井君が便所に立った。跡から早足に便所に這入って来るものがある。忽《たちま》ち痩《や》せた二本の臂《ひじ》が金井君の頸《くび》に絡《ゥら》み附く。金井君の唇は熱い接吻を覚える。金井君の手は名刺を一枚握らせられる。旋風《つむじかぜ》のように身を回《かえ》して去るのを見れば、例の凄味の女である。番地の附いている名刺に「十一時三十分」という鉛筆書きがある。金井君は自分の下等な物に関係しないのを臆病のように云う同国人に、面当《つらあて》をしようという気になる。そこで冒険にもこの Rendez−Vous に行く。腹の皮
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