なかじきり
森鴎外

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)老大免左遷《ろうだいさせんをまぬがる》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)往々|棋《ご》を囲み

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「女+(合/廾)」、497−上−7]
−−

 老いはようやく身に迫ってくる。
 前途に希望の光が薄らぐとともに、みずから背後の影をかえりみるは人の常情である。人は老いてレトロスペクチイフの境界に入る。
 わたくしは医を学んで仕えた。しかしかつて医として社会の問題に上ったことはない。「※[#「女+(合/廾)」、497−上−7]※[#「阿/女」、497−上−7]雕朽木《えんあきゅうぼくをえり》、老大免左遷《ろうだいさせんをまぬがる》」の句がある。
 わたくしの多少社会に認められたのは文士としての生涯である。抒情詩においては、和歌の形式がいまの思想を容《い》るるに足らざるをおもい、また詩が到底アルシャイスムを脱しがたく、国民文学として立つゆえんにあらざ
次へ
全5ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
森 鴎外 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング