恥しく候、さて女の性《しょう》は悪しきものと我ながら驚き候は、大人《おとな》しく横になつてゐた清さんの領《えり》へ私が手を遣《や》りし事に候、その時に清さんは身を縮めてぶるぶると震ひなされ候、女の肌知らぬ人といふではなし、可笑《おか》しな事申すやうではあれど色々の男と寝たことある私、つひにない事、はつと思つて手を引き候とたん何とも申さうやうのない心持《ここち》致し、それまで燃え立つやうに覚え候ふ胸の直様《すぐさま》水を浴《あび》せられ候ふやうになり、ふつつりと思ひ切つて清さんにはその手をさへ常談の体《てい》に申しくろめ、三谷さんの手前湯にといはせて返し候へば、清さんは何ともお思ひなさるまじく飛んだ隙潰《ひまつぶ》しをしたなどと申しをられ候ふ事と存じ候、この始末後にて考へ候ふに、私に罰《ばち》でも当つたのかお前様の念《おもい》が通つてゐたのか、拙《つたな》き心には何とも弁《わきま》へがたく候、この文差上げ候ふ私の心お前様に熟《よ》く分り候はんや覚束《おぼつか》なく候へども、先ほど申し候ふ通《とおり》それはどうでも宜《よろ》しく、ただお前様が清さんを大事にしてさへお上げなされ候はば、私の願
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