ば好いといふ、それでは姉《ねえ》さんほんのお茶番なのねえ、三十分もゐたら好《い》いのでせうか、ああ好いどこぢやあなくつてよ、だが皺《しわ》になるといけないからこの浴衣《ゆかた》だけはお着なさいよ、私も着かへるからと扱《しごき》ばかりになれば、清二郎は羽織《はおり》を脱ぎながら私やあ急いで来たせゐか、先刻《さっき》から咽《のど》が乾いてなりませぬ、ラムネが貰《もら》へるなら姉さん下へさういつて下されといふ故兼吉すぐに廊下に出て降口《おりぐち》より誂《あつら》へるを、かの六畳からお万が見ゐたり、二人は一間に籠りゐて、ラムネの来《こ》しをば兼吉が取入れつつ、暫しありて清二郎は湯にとて降りて復《ま》た来《きた》らず、雨は夜《よ》の間《ま》に上《あが》りしその翌日《あくるひ》の夕暮、荻江《おぎえ》が家の窓の下に風鈴《ふうりん》と共に黙《だんまり》の小花、文子の口より今朝聞きし座敷の様子|訝《いぶか》しく、清さんが朝倉の帰に寄らざりしを思ひ合せて、塞《ふさ》ぎながら湯に往《ゆ》きたるに、聞けば胸のみ騒がるるお万があの詞《ことば》の端々《はしばし》、兼吉さんが扱《しごき》ばかりで廊下に出たのを見たと
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