来合せた。めったに来ぬ人なので、伊織は金の催促に来たのではないかと、先《ま》ず不快に思った。しかし金を借りた義理があるので、杯《さかずき》をさして団欒《まとい》に入れた。
暫《しばら》く話をしているうちに、下島の詞《ことば》に何となく角があるのに、一同気が附いた。下島は金の催促に来たのではないが、自分の用立てた金で買った刀の披露をするのに自分を招かぬのを不平に思って、わざと酒宴の最中に尋ねて来たのである。
下島は二言三言《ふたことみこと》伊織と言い合っているうちに、とうとうこう云う事を言った。「刀は御奉公のために大切な品だから、随分借財をして買っても好かろう。しかしそれに結構な拵をするのは贅沢《ぜいたく》だ。その上借財のある身分で刀の披露をしたり、月見をしたりするのは不心得だ」と云った。
この詞の意味よりも、下島の冷笑を帯びた語気が、いかにも聞き苦しかったので、俯向《うつむ》いて聞いていた伊織は勿論《もちろん》、一座の友達が皆不快に思った。
伊織は顔を挙げて云った。「只今のお詞は確に承った。その御返事はいずれ恩借の金子《きんす》を持参した上で、改《あらため》て申上げる。親しい間
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