ます。」
「そんな風な工合に、色々予測をして見て、それが狂ふので、わたくしはとう/\或る事実を発見しました。つまり予測の誤りを修正して行つて、その事実に到達したのでございますね。その事実が分かると、わたくしの手足がぶる/″\と顫えて、心の臓がもう一遍劇しく波立つたのでございます。」
「この感動は今までより恐ろしい事を発見したからではございません。さうではなくつて、意外にも又一縷の希望が萌して来たからでございます。その希望は、わたくしの古くから持つてゐた記憶と、今目の前に見てゐる事とを思ひ合せた結果で、出て来たのでございます。その記憶といふのは、ロフオツデンの岸には、一旦モスコエストロオムの渦巻に巻き込まれて、又浮いて来た色々な品物が流れ寄ることがあつたのでございます。大抵その品物が珍らしく揉み潰され、磨り荒されてゐるのでございます。丁度刷毛のやうにけばだつてゐるのが多かつたのでございます。普通はさうであるのに、品物によつては、まるでいたんでゐないのもあつたのを思ひ出しました。そこでわたくしはかう考へました。これは揉み潰されるやうな分が、本当に渦巻の底へ巻き込まれたので、満足でゐるものは
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