てしまひさうでございました。為合《しあは》せな事には、丁度モスコエストロオムの潮流と反対した潮流に這入りました。さういふ潮流は暴風のときに、所々《しよ/\》に出来ますが、今日あるかと思へば明日なくなるといふ、頼みにならない潮流なのでございます。それに乗つて、わたくし共は幸にフリイメンのうちの、風のあたらない海岸へ、船を寄せることが出来たのでございます。」
「こんな風にお話を申しましても、わたくし共の出逢つた難儀の二十分の一をもお話しするわけには参りません。わたくし共の漁場の群島の間では、天気の好い時でも、安心してはゐられなかつたのでございます。併し或るときは、風の止んでゐる時間の計算を、一分ばかり誤つた為めに、動悸が吭《のど》の下までしたやうなことがありましても、兎に角わたくし共はモスコエストロオムの渦巻にだけは巻かれずに済んでゐたのでございます。どうか致すと、船を出す前に思つたより風が足りなくて、船が潮流に反抗することが出来にくゝなつて、船脚が次第に遅くなつて来るやうなときもございました。わたくし共の一番の兄は十八になる倅を持つてをります。わたくしも丈夫な息子を二人持つてをります。そ
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