魚の潮流に反抗して逃れ去らんと欲し、叫び吠ゆる声は文字の得て形容する所にあらざりき。或るときはロフオツデンよりモスコエへ泳ぎ渡らんとしたる熊、この盤渦ちゆうに巻き入れられしことあり。その熊の叫ぶ声は岸まで明かに聞えたりといふ。松栢《しようはく》、その他の針葉樹、その内に巻き込まるゝときは、摧《くだ》け折れ、断片となりて浮び出づ。その断片は刷毛の如くにそゝけ立ちたるを見る。案ずるにこれこの所の海底|鋸歯《きよし》の如き巌石より成れるが故に、その巌石の上をあちこち押し遣られし木片は、此の如くそゝけ立つならん。潮流は海潮の漲落に従ひて変ず。而してその一漲一落必ず六時間を費やす。千六百四十五年のセクサゲジマ日曜日の朝は潮流の猛烈なりしこと常に倍し、海岸の人家の壁より、石材脱け落ちたりといふ。」
この本に水の深さの事が言つてあるが、著者はどうして渦巻の直き近所で、水の深さなんぞを測つたものと考へて、あんな事を書いたのだか分からない。三十五ノツトから四十ノツトまでの間といふのも、ロフオツデンの岸に近い所か、又は、モスコエの岸に近い処か、どちらかの海峡の一部分の深さに過ぎないのだらう。マルストロオ
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