の木株へ腰を下ろして、煙管を出し、「いや、こないだは痛けえ[#「痛けえ」に傍点]だったっちう話だっけな。どうしてどうして、田辺君のような若い勇士でなけりゃ出来ねえこった。」
「な、なんだい。……何を言ってるんだい。」
田辺はうすうす分ったが、わざとそんな風に笑って、種子を蒔きつづける。
「何を……って君、瘤の野郎をぐう[#「ぐう」に傍点]の音も出させまいと凹ませたっち話よ。――いや、どうして、この村広しといえども、あの男の前へ出ては口ひとつきけるものいねえんだから、情けねえありさまよ。そこを君が、堂々と正眼に構えて太刀を合せたんだから……」
「つまらねえこというな。」
「つまらねえこと……馬鹿な、何がつまらねえことだ。俺ら聞いて、すうっ[#「すうっ」に傍点]と胸が風通しよくなったようだっけ、本当によ。――あんな君、瘤のような人間、駄目だよ。これからは、はア、時代おくれだよ。若い連中で村政改革やっちまわなくちゃア……」
田辺定雄は種子まきを止めず、相変らずにやにややっているよりほかなかった。いったい、この男、なんでやって来て、なんのためにそんなことごでって[#「ごでって」に傍点]やが
前へ
次へ
全44ページ中36ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
犬田 卯 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング