えで、むっつりと壁面かどこかを睨まえている。
「本年度の予算案について、田辺君から修正したい点があるそうで……」と杉谷助役が村長の傍の椅子へかけるや否や、少しく無雑作にやり出した。そして、「田辺君……」ちょいと眼で。「だいたい――」田辺は自席から、「他村なんかに比し、本村の公課負担は重すぎる傾向があるようだが、――たとえば舟車税付加というようなものに見ても、他村では本税の二三割しか付加していない。しかるに本村では八九割もかけている。――それからもっとも大きな問題は特別税戸数割で、これは本村では、収入一円につき二銭三厘云々……というような賦課率になっているが、こういう点、もう少し村民の負担を軽くしてやることは出来ないものだろうか、と考えるのだが……」
「どういう根拠で君はそんなことを言う。」と村長が不意に威嚇するような声を出した。
「どういう根拠……といって別に……」
「棍拠がない。では単に反対するために反対するのか……」
「いや、根拠がないというわけではないが。」
「では、それを言って見たまえ。」
「つまり……その……村民の生活程度というものは……」
「それが根拠か。君は村民が一年間に
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