煙を吐き、小使の汲んで出す渋茶にも眼もくれず、いきなり猥談をはじめた。
「昨夜は弱ったぜ、『しん六』サ引張ってゆかれたはまアいいが、あいつがいやがって……あんなところに。あの『鶴の屋』にいた小便くせえハア子の野郎さ、あいつが君、くりくりした眼のいい加減のやつ[#「やつ」に傍点]になってやがてからに、俺を見たら、へんな顔してしまって、畜生――」
「あれッ、あの阿女っちょ[#「ちょ」に傍点]か」と助役が頓狂な声を上げた。
「それで奴、どうしても俺の前へ出て来ねえ。呼ぶとますますそっぽ向いてからに、畜生。」
「そんなこと言って村長、それからあとでもて[#「もて」に傍点]っちまって、今朝おそくなったんだねえのか。」
 これは村議の一人、村で米穀肥料商を営んでいる沢屋の旦那[#「沢屋の旦那」に傍点]である。
「そんなら文句はねえが、俺も悲観しちまったな。いくら呼んでもそばへも寄って来ねえときては……俺もこれ、いよいよ女には見離されるような年頃になったかと思ってな、はは、ははは……」
「時に――」村長は笑いを止めて、村議の一人が注いで出す酒を見向きもせず、「別に今日は議案はあるめえ。――俺はもう出
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