い会議費というのはどんな細目のものだろうと見ると、筆墨、薪炭、用紙、茶、雑などというもので、それは他の項の雑支出と大して違わない細目である。それからまた「臨時支出」という項が別にあって、そこにも雑支出や、統計費などというものが挙げてあり、ここでもダブっている。村会の時いつもがぶがぶみんながひっかけている酒、あれは、それではどこから出るというのであろうか。まさか、役場費からでもあるまいと思って睨むと、やはりそうではない。役場費の八・一〇三という数字は吏員の給料や臨時手当である。
「馬鹿野郎」と田辺定雄はつぶやいた。要するに報告などというものは、形式的な、いい加減なものにすぎないので、それは何も村役場のそれにのみ限ったわけではなかったのだ。からくり[#「からくり」に傍点]はもっと内部にある。そいつを俺はしっかりと掴まなければいかんのだ。そうしなければ瘤をやっつけるわけにはゆかんのだ。
 ところで……と田辺は書類を傍へ押しやり、机へ頬杖ついて考える。瘤をたたき落すこと、そいつはひとまず問題ないと仮定して(何故なら奴の缺点なんか掴もうと思えば歳入出面とは限らず、いくらでも転っていようし、奴に反感をいだいている助役の手許にだって山ほど集まっていよう)、ただそのために例の奴を番犬の如くに考えて頼っている一部の連中、信用組合員や農会の連中、あいつらが何というかだ。――瘤がかつて村の金庫を腕力で護ったと同じように、現在、彼らは自分達の金庫を名村長瘤の存在によって守ってもらっていると信じているんだ。
 だが、いかに瘤の存在によってそれが守られていようと、要するに時日の問題でなければなるまい。無力文盲に近い貧農たちの無けなしの土地を整理して、上部の方を辻褄合せようと、組合の内部は依然として火の車なのであり、いや、ますますそれが悪化していっているのだ。碌な事業はせぬ、それで取るべき給料はきちんきちんと取っている、では……三年か五年か、それは分らないが、いずれにしても瘤にも寿命というものはあろう、いや、名村長、大もの[#「大もの」に傍点]の貫禄はいまや年一年減少しつつあると考えてもあえて間違いではないであろう。
 根こそぎ町の金持のところへこの村が持って行かれるなら、一日も早く、きれいさっぱりと持ち去られた方がよくはないのか。そして何もかも新しく、これからやり直すのだ。村を再建するんだ。

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