]笊を探しあぐねているうち、兄の由次に逸《いち》早く持って行かれてしまったのである。勝からいえば自分にあてがわれたその股引と手甲が、ことに股引が――それは昨秋東京の工場へ行った長兄がそれまで使用していたもので、全くだぶだぶで脚に合わず、上へ引っ張ってみたり下の方で折り曲げてみたり、ようやくのことで穿いたというような理由で、それで由次に遅れを取ってしまったので、
「由兄の野郎ずるいや、あとで見るッちだから。」勝はそんなことを三度も由次の後姿に向って浴びせかけたのだったが、こんどは母親に突っかかった。
「俺に股引こしらえてくれねえからだ。こんなひと[#「ひと」に傍点]のものなんど……」
「ひと[#「ひと」に傍点]のものでも自分のものでも、この野郎、それ本当の木綿ものなんだど。きょう日、スフの股引なんど、汝《いし》らに穿かせたら半日で裂《き》らしちまァわ。」
おせきは籠の中へ大きな弁当の包みや、万一の用意に四人分の蓑《みの》をつめこんで、これまたよろめくように背負い、そして足ばやに勝に追いついて一言の下にたしなめると、やがてすたすたと追い抜き、道の先の方に見える由次や夫に遅れまいと足を早め
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