これと、これと、これ……これ……」
俵へ触れる彼女の手先はぶるぶると震えていた。
「ああ、七俵か……そうすると、こちらは家族八人……少し余る勘定だな……一俵だけそれでは供出して貰うことになる訳だな。」
書記は紙片へ書き込んで、それからおせきに捺印させた。やがて調査の一行はどやどやと門口を出て行ったが、おせきは失神したように、軒下に突っ立っていた。
「おっ母さん、いまのあれ[#「あれ」に傍点]違っていべえな。」
勝は相変らずきょとんとした顔付で、眼ばかり輝かせていたが、こんどは、違っていても差支えないのかというように母に迫った。
「馬鹿、汝《いし》ら黙っていろ。よけいな口きくとぶんなぐるぞ」とおせきはやっと我にかえって勝をたしなめた。
底本:「犬田卯短編集 一」筑波書林
1982(昭和57)年2月15日第1刷発行
入力:林 幸雄
校正:松永正敏
2007年12月8日作成
青空文庫作成ファイル:
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