始末からして、私の柔くなってしまった手には負えることでなかった。壊れた外廻りの垣根から、廃屋を取毀したあとの整理、井戸浚い、母家の修繕……と数え立てると眼前に待っている仕事だけでも限りがない気がする。机の前に座って自分の仕事を――原稿書きをしようとしても、そういうことを気にしだすともう手がつかないのである。で、浩さんからの申し出を私たちは二つ返事で承諾したのであった。それに全く誂えむきに、彼は百姓仕事のみならず、壁塗りでも、垣根づくりでも、井戸掘りでも、植木類の移植のような仕事でも、なんでも器用にやれるという村人の評判であったのだ。年齢は三十七だとのことで、五つ六つ年上の女房と二人暮しをしていたのであるが、私たちが帰村してから間もなく、その年上の女房は「逐電」――浩さんの直話――してしまい、彼はその時妹だという「ちょっとした女」――これは村の一中年者の酒の上での表現――といっしょに、その一室きりない草葺家に暮していたのであった。彼はほんの少しばかりの田畑を小作しているとのことだが、むろんそれだけで足りようはずはなく、養蚕時はその手伝いに、農繁期には日傭取りに……というふうにしてささやか
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