沼畔小話集
犬田卯

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)優男《やさおとこ》
                                                       
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)草|蓬々《ぼうぼう》で

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)純真なやつ[#「やつ」に傍点]でね
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     伊田見男爵

 伊田見男爵と名乗る優男《やさおとこ》が、村の一小学教師をたずねて、この牛久沼畔へ出現ましました。
 男爵令嗣は「男爵」と単純に呼ばれることをなぜか非常によろこばれたということであるから、私もこれから、単にそう呼ぶことにしよう。で、閣下、いや、男爵は霞ヶ浦の一孤島――浮島にしばらく滞在されて、そこの村役場の書記某というものの紹介状をふところに、わが村の教師のところへやって来たのである。何の目的があって? それはおいおいと判明するであろうが、とにかく同僚の紹介――教師は以前その島に奉職していた――であるから、Mというその教師は、細々と書かれた紹介の言葉を読み終るや、
「さア、
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