蔭で、この山間の村々でも、約三百軒の貧農、中農が、まき添えを喰って倒産する。だが、それも時代の勢いというもので、何とも仕方がない。まずまず身代はたかれて百姓が出来なくなったら、工場だ、工場だ……」
だが、儀作の耳へはそれは入らなかった。いや、入るには痛いほど入っても、忰がかえるまで、どんなことがあろうと商売がえするつもりはないと告白した。と、前村長はしばらく考えていたが、ずばりと、
「古谷からの借金はいくらあるんだか。」
儀作はちょっと応答に窮した。肩をもじもじさせてから何か言おうとしたが、下を向いてしまった。
「元金は?」と前村長は無遠慮にたたみかけた。
「その、元金というのは、あれ、なん[#「なん」に傍点]ですよ、あの『荒蕪地』――村長さんが払下げてよこした……」
「ああ、あれか……あの時は君らも随分ぶうぶう言って、俺を悪党扱いにしたっけが、今では見ろ、あのために後藤新平閣下の計画どおりに、実に立派な大東京になったから。いまでは世界第三位の大都市さ。さすがに閣下は先見の明があったよ。実にえらかった。総理大臣にはならなかったが、総理以上の総理の貫録はあった人物だ。あの人の大計画を
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