じめるんだ。ほら、県ざかいのあの鹿取山さ、君らもあの辺はよく知ってるだろう。最近、あの山の向うに、君、調査して見るとアンチモンが何千万トンというほど埋蔵されているんだ。アンチモンと言ったって、君らにはナンチモンか分るまいが、とにかくこれから非常に国家的に有用な鉱物資源なんだ。そいつを大々的にやるんで、どしどし工場や住宅を建築するんだが、あんな君の部落のような山の中腹のつまらない所で一生涯ぴいぴいして土いじりをしているより、どうだい、俺の事業へやって来ねえか。――そして、うんと金をもうけてさ。な、そうしたまえ。なに、親、女房、子供? そりゃ君、それらなりに仕事があるよ。ぜひやって来たまえ。馬車を持っているんなら一日五円にはなるぜ。」
そして、儀作にはかまわず、運転手を促して、すうっと雪景色の中へ行ってしまった。
儀作は歯ざれのいいその弁舌――その快調にすっかり酔わされたように、しばし茫然として自動車を見送っていたが、やがて独語した。――あの分ならなんとかなる。
三
儀作は数日おいて再び古谷邸を訪ねた。若旦那と弁護士との間になんらかの話し合いがついている頃と考えたからで
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