だよ。お通や」と母親はついにあきらめろというように、なおも子供らといっしょになってきょろきょろやっている娘へ言うのであったが、
「でも、ひょっとして、どんなところ落ちていねえとも限らねえから……」
お通は二度も三度も掻き分けた草の中まで、さらに足の爪先で蹴って見るのである。
三
その夜、白々明けまで、お通はひとり寝床の中で泣いていた。夕方、野良から帰った兄貴に、
「うっかりぽんとして白痴《ばか》みてえにだらだら歩いてけつかるからだ、でれ助阿女」と罵られたばかりか、近頃ことに酒などを覚えて意地悪を言うようになった彼の口から、さらに、「貴様らなんかにこれから一文だってやることだねえから……銭ほしかったら女中奉公にでも出ろ、二十三にもなりやがって、いつまで兄貴のすね[#「すね」に傍点]かじっているんだ」と慰めるどころか反対にますますひどくやられたのである。
平常なら「兄らも何だか、二十七にもなってまアだ嬶も持てねえで。……」としっぺ返しをするところだったが、その元気もなく、ただ悔《くや》しさでいっぱいの彼女だった。そしてその悔しさも兄貴から痛いところをやられたからというよ
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