。」
「でも、悪い日だなんて言われると、怖くなって何も出来なくて困ることもあるんだねえかしら。」
「そんな人は九星にとっつかれている人で、九星の吉凶というのはそんな意味だねえよ。悪日というのは気をつけろっちうことなんだから。」
そう聞くとお通はなるほどと思った。それから失くした金は二三日中には必ず出ると繰りかえし卦のことを言われてすっかり喜んでしまった彼女は、帯の間から白紙につつんだ五十銭玉二つを出して、
「あの、いくらですぺね。」
「あ、それは、なアに、思召しでいいんだよ。何もこれ、商売ではねえんだから。」
「ではこれだけでいいかしら。」
「なアに、半分でいいから。」
口だけで、別に押してかえそうともしないので、お通は惜しかったが二つをそのまま置いて戸外へ出た。
家へかえって話し、それから彼女はいつものように往還で遊んでいる子供らに、昨日、隣り村の誰かが遊びに来はしなかったか、姿を見かけたものはなかったかと訊ねてみた。子供らはぽかんとしていて答えるものがいない。「あいよ、昨日の九時頃よ、あれは……要三は、菊一は、佐太郎は……」しかし一人として来たというものも姿を見かけたというものもなかった。学校がえりの大きな連中をつかまえて聞いてみても、結果はついに同様でしかなかった。おそらく誰も知らない間に自転車ででも通りかかって拾って行ったのかも知れない。お通は訊ねるのをあきらめて、とにかく明日まで様子を見ることに決心した。籠屋のいうように、拾ってはみたが使いようがなくて、そうっと戻しにやってくるかも知れぬ。
しかし、それもついに空頼みに終った。翌くる日もすぎ、四日目になったが、依然として金は出て来ない。
「あれにかんがえてもらえな、地神さまに。」
母親が言い出した。あまりにがっかりしてしまっている娘が可哀そうだったのだ。
そこでお通は沼沿いの丘の下へどこからか漂着して住んでいる山伏のような「地神様」と村人がよんでいる方位師のところへ行って見てもらった。と、この天神ひげを生やした痩せぽちの老人は、まず筮竹をがらがらとやって算木をならべ、それと易経とを見くらべながら、「うむ……うむ……」とうなっていたが、だいたい籠屋のいったように、日が悪かったことから説き出して、さて、
「この失せものは南の方、家より半道ほどの枯草の中に落ちています。今日中は誰の眼にもとまらず、その
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