であるけれども、勉強するには点字があるから不自由はしない。音楽の勉強をしたいと思えば、独逸《ドイツ》で出来ている、点字のオーケストラやピアノの曲の譜面があるので、それを手で探り探り読むのである。
 私はいつでも作曲するのに、晩の御飯を食べた後で一寸ひと寝入りして、世間が静かになってから、自分の部屋でコツコツ始めるのである。丁度、学生が試験勉強をするようなものである。或る時は、徹夜をする時もある。そして、夜が更けて、あたりが静まってしまうと、自分の神経の所為か、色々の音が聞こえて来るように思われるのである。
 これは人から聞いた話しであるが、西洋の或る作曲家が、山の静かな所へ行くと、山の音楽が聞こえて来る、しかし、それが、はっきりとしたものではないので、楽譜に書き改めることはできないが、しかしやはり何かしら聞こえて来るので、その音楽を掴もうとして掴み得ずに一生を終ってしまったということを聞いたことがある。
 私も夜が更けるに従って、色々の音が聞こえて来るのであるが、初めは、形のない、混沌としたしかも漠然としたその曲全体を感じる。それで私は最初に絵でいえば、構図というべきものを考えて、次に
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