昼間の疲れが出て、夜になると教えている中に、居眠りをしてしまう。しまいにはみんな怒って来なくなったりして、また謝りに行って来て貰ったこともあった。こういう中にも、私は箏をもっと勉強をしたいという心持は変わらなかった。
 朝早くみんながまだ寝ている中から起きて一人で箏の練習をしていた。
 私の居た処は、小学校の直ぐ下で、表は広い草原であった。朝鮮へ来て間もなく秋が訪れて、その草原からはいろいろの虫が聞えはじめた。
 また夕方になると、直ぐ上の空の方を雁がたくさん啼きながら通って行く。
 私は表へ出て、それをじっと聞いていると、内地のことが想い出されて、師匠は今頃どうして居られるか、師匠に会いたいなと思うのであった。
 はじめての朝鮮の冬は、身にしみて寒かった。卵が凍って殻を割っても、お膳の上でころがったり、なっ葉の漬物を噛むと、シャリッと音がして、歯にしみわたったり、蜜柑なども噛むと音がした。火箸のような金のものを持つと、手に吸いつくようになる。
 また夜眠っている中に、自分の息が、布団の襟に凍りつく。窓硝子へ部屋の中の水蒸気が凍りついて、さわってみるといろいろの形の小さい粒が、指先に触
前へ 次へ
全7ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮城 道雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング