私のすきな人
宮城道雄

 私のすきな人はたくさんあるので、みな書くことは出来ないが、最近倒れた印度のガンジー翁などはすきである。ラジオや新聞によると、ガンジーは、いつもヤギの乳や、ナツメの実ばかり食べて生活していたとか、それに何か願いごとがあると、よく断食をやったが、その時は、むろんこのヤギの乳も、ナツメの実も食べなかったのであろう。
 私は子供の時に気に入らないことがあると、怒って御飯を食べないことがよくあった。しまいには、みな愛想をつかして、相手になってくれなかった。ところがガンジーが食事をしないと、世界中の人が注目する。これは信仰のため、世のために行われるからであるが、私は子供の時に、自分がやったつまらないことと比べて、考えてみたことがあった。
 ガンジーは、自分をピストルで射った相手をもうらまずに、助けてやるようにと言われたそうである。ガンジーのお葬式の日には、何十万という民衆が、地方から集って来て、ガンジー夫人が、棺へ火をつけて、炎が燃え上った時には、人々が声をあげて、花束を投げこんだというニュースを聞いて、私は広い川のほとりの、この光景を想像して、何か詩のような感じがした
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