々若返って、百五十迄は生きられる様になる研究が進められているとか、私にとってはいずれも、耳よりの話であった。しかし私は、今はもう眼が明きたくないと思っている。それは自分が子供の時に見た月とか花とか、いろいろの景色も今も覚えていて美しく想像している。また私は何時迄も長生をしたいと思っているが、しかし寿命が来れば、何時何時でも安心して往きたいと思っている。
私のただ一つの望みは、寿命の来る迄相変らず箏が弾ける様にと、そればかり願っている。
こんなことを考えている中に、何かざわめいたと思うと改札が始った。その人は、親切に私をかかえる様にして階段をのぼらせてくれたが、列車が這入って来ると、混雑して、ろくにお礼も言わない中に、その人とはぐれてしまった。
発車のベルの鳴る頃は降りしきる雨の音が一しきりはげしかった。夜中過ぎても私は眠れなかった。急ぎの作曲があったので、それを考えようとすると、隣りにかけていたおばあさんが小さい声で義太夫を語り始めた。そのうち、おばあさんは眠ったらしい。静かになったので、私はさっきの続きを考えはじめると、おばあさんが急に眼を醒まして、今度は三十三間堂のさわりを始
前へ
次へ
全4ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮城 道雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング