雨夜の駅
宮城道雄
雨のしとしと降っている夜であった。私は京都の駅で汽車を待っていた。親戚の若い人達が早くから来て場所を取ってくれていたが、それでも列の後の方であった。
そこでは並んでいる人同士で汽車の混む話から、何処其処を何時に出るのが割合に空いているとか、あの汽車は混むとか、あの汽車は比較的早いとか、色々評をしている。その間にも外では、しきりに雨の音がしている。私はそれを聞いていて、また雨夜の汽車定めだと思った。
私は待遠しいので時計を幾度も出してさぐった。余程時間が経ったつもりでさぐってみても十分位しかたっていない。するとすぐ前にいた人がのぞき込む様にして時計がわかるのか、盲人用の特別の時計かと尋ねたので、盲人用のもあるが、私は普通の時計をさぐって針の見当で三十秒までわかる。それ以上はさぐっている中に過ぎていくので困ると言いながら、私が時間をさぐり当ててみせると、成程と言った。先程からの声の様子では、三十を半ば過ぎたくらいの男の人であると思った。その人が、私に色々の話をした。自分は長らく胸の病になやんだので、あなたの様な不自由な人を見ると、一層気の毒に感じると言った。それ
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