敬意を表さねばならぬのは勿論だが、目下の者だから、貧しい者だからといって何故威張らねばならぬのか。私にはそういう気持がわからない。それでよく弟子達に、「先生は誰にでも頭を下げるから威厳がない」と叱られたりするが、しかし私は自分の値打を自分で拵えて人に見せようというような気持にはなれない。
 これは何も私が修養が出来ているかのように仄かすのではない。およそ音の世界に生きる者のすべてが自然に持つ、一つの悟りとでもいうべき心境であろう。有難いと思う。私はいま別に信仰というものはないが、強いていえば、私にとって音楽は一つの宗教である。



底本:「心の調べ」河出書房新社
   2006(平成18)年8月30日初版発行
初出:「夢乃姿」那珂書店
   1941(昭和31)年11月22日
入力:貝波明美
校正:noriko saito
2007年12月28日作成
青空文庫作成ファイル:
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