のレコードを持っていた。友人の内田百間先生は、この曲が非常に好きで、あのタンタンタヽヽヽという節を聴くと妙にビールが飲みたくなるので、私の家で飲んだり、何処かへ飲みにつれていって貰ったりしたが、私もその頃、この曲が好きで、これにヒントを得て、「落葉の踊」を作ってみたのである。
その後、百間先生が学生を連れて来て、酔っぱらった勢でこのレコードを没収して帰ったように思ったが、今、その話をすると、そんな覚えはない、迷惑な話だというのである。
その頃は、ハイフェッツ、エルマン、クライスラー、ジンバリストなどが相ついで来朝したのである。
そして、百間先生はこの曲の実演をきいた時には、たまらなくなって、休憩時間に日比谷の地下室へ降りて、ビールを飲んだとかである。
クライスラーが来朝した時には、三島さんのお邸で私は「落葉の踊」と、「秋の調」を聴いて貰ったが、このレコードと関連して、今懐しく思い出されるのである。
私にはレコードが命から二番目位大事なので、戦時中にも荷馬車に積んで疎開先をあちらこちらと持廻ったので、今でも多少残っているのは嬉しい。
私は気分の勝れない時はモーツァルトの曲を聴くとすがすがしくなって来る。私はクラシックのものが好きであるが、また極く近代的のものも好きである。
それにレコードを勉強に聴く時と、楽しみに聴く時と二様にわけている。私は忙しい仕事が一段落つくと、何かレコードが新しく買いたくなるので四谷の好音堂へ電話をかける。
その店が戦災でとぎれていたが、終戦後しばらくして復活したので、またときどき求めているが、しかし、戦争以来レコードによっては針音がひどくてはっきりしないのや、また、途中で針が折れてしまうようなのにもあたることがある。しかし最近、新入荷というのは流石によい音がする。
とにかく、私にはレコードが先生でもあるので、月謝を払うつもりでよい新譜が出ると毎月求めることにしている。
底本:「心の調べ」河出書房新社
2006(平成18)年8月30日初版発行
初出:「春の海」ダヴィッド社
1956(昭和31)年8月5日
入力:貝波明美
校正:noriko saito
2007年12月28日作成
青空文庫作成ファイル:
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